順天堂大学大学院 医学研究科 神経学 主任教授
波田野 琢
令和7年8月1日より、神経学教室を担当させていただいております。当教室は1968年に医学部の神経学講座として、日本で最初に開学をした歴史ある教室です。初代教授、楢林博太郎先生は、パーキンソン病の外科手術を世界に先駆けて確立したパイオニアとして活躍されました。二代目教授、水野美邦先生は米国における先進の臨床神経学を伝承し、パーキンソン病を分子生物学と遺伝学から病態を解明されました。三代目教授、服部信孝先生はパーキンソン病の原因遺伝子の発見、病態メカニズムの解明、臨床研究により革新的診療技術の開発など世界最先端の業績を数多く出され、当教室を世界トップクラスへ育ててくださりました。このような伝統ある教室を引き継ぐことになり、大変栄誉であるとともに、重積に感じております。
順天堂大学神経学教室は、開学から一貫して日本におけるパーキンソン病のセンターとしての役割を担ってまいりました。さらに、脳神経内科医が関わる疾患は脳血管障害、神経免疫疾患、筋疾患、頭痛やてんかんなど多種類があり、これらの疾患に悩まされる患者さんは数多くいらっしゃいます。当院は大学病院の中で全国トップレベルの患者数(入院患者数1000人/年、外来初診患者数2000人/年、再診患者週6万人/年)を誇り、全ての領域の疾患の診療を行なっております。
さらに、臨床神経学から基礎神経科学まで幅広く行える環境が整っています。当教室では、神経変性疾患、脳卒中、神経免疫疾患のいずれも詳細な臨床所見に紐づいた血液、髄液などの体液検体、遺伝子、iPS細胞、先進的脳MRI、神経機能画像を含むレジストリを保有しております。さらに、変性疾患を中心としたブレインバンクも保有しています。これらの豊富な臨床サンプルから人を対象とした疾患研究を行い、体内で生じている変化を解析し、得られた結果を動物モデルや培養細胞を用いることで、その病的意義を突き止めています。さらに、基礎研究で得られた結果を臨床検体へ応用し、新たな病態メカニズムの解明を行なっています。すなわち、トランスレーショナルおよびリバーストランスレーショナルリサーチのどちらも充実して行えます。
このような当教室の環境を踏まえて、私の抱負と方針を述べさせていただきます。

臨床医育成について
私は臨床現場で経験する課題を解決するために必要な研究を指導し、自ら考え行動できる「physician scientist」の育成を目指します。また、本邦および国際パーキンソン病・運動障害学会の理事として、世界中の第一線で活躍する臨床医や研究者と共同で研究や政策提案を行なってきました。この経験と人脈を活用し、医学生や若手医師を海外と積極的に交流させ、グローバルに活躍できる人材育成を目指します。さらに、医学は患者さんと向き合う学問であることを踏まえ、多様な価値観を理解するためのリベラルアーツ教育の推進にも取り組みます。
研究について
私は基礎研究として動物モデルや細胞モデル、ヒト検体を解析し、トランスレーショナルリサーチを通じて神経難病の病態解明やバイオマーカー開発を推進して参りました。また、医師主導臨床研究を多数手掛け、エビデンスを構築してきました。これらの研究には、個人や1組織では限界があり、これに対し国内外の共同研究を行い克服した経験もあります。このように、基礎および臨床研究を推進するためのノウハウを幅広く熟知しており、神経難病の病態解明と根本治療に向けた新たな知見の創出に貢献します。特に、若手研究者の登用と研究環境の整備を重視し、次世代の研究者が意欲的に挑戦できる場を提供したいと考えています。
診療について
私の専門はパーキンソン病に代表される神経変性疾患が中心ですが、順天堂医院に長く勤務した経験から、脳血管障害や神経免疫疾患、筋疾患など幅広く神経疾患の診療に携わることができました。この経験を活かし、全神経疾患に苦しむ患者さんへ適切かつ最善の医療を提供できるよう努力します。特にパーキンソン病診療においては、米国患者団体「Parkinson’s Foundation」から日本で唯一認定されたパーキンソン病センター「Center of Excellence」の代表として牽引をしてきました。この活動を発展させ、パーキンソン病診療を中心に、本学の神経学講座の診療レベルを一層向上させることに貢献します。
ぜひ、私たちと一緒に世界第一線で活躍する脳神経内科を目指しましょう。